子育てママのこころの健康のために(練馬区公式ホームページ)

練馬区保健所嘱託医精神科医 とよたまこころの診療所 鷲山拓男

 練馬区内の保健相談所で、1990年代前半から保健相談に携わってきました。保健相談所では、母子手帳交付から妊娠期や出産後の子育て期にわたって、多くの(基本的にすべての)子育てママに出会います。こころの健康問題をかかえる状態になった妊産婦や子育てママの区民の方々に、保健師とともに直接お会いすることもありますし、援助の方法を保健師と相談することもあります。私の保健相談所での経験をもとに、子育て中の方もそうでない方も、区民の皆さんにお伝えしたいことをお書きします。

     共同の営みとしての私たちの暮らし

 私たちは、何万年も前の太古の昔から、群れや集落などの共同体をつくって生活してきました。日頃の暮らしは、共同体のなかで支え合いながら営まれてきました。地域の共同体にたくさんの大人とたくさんの子どもがいて、日々の生活があり、その暮らしのなかで子どもたちは育ちました。「父母と子ども2人」のような核家族が生活の基本単位となったのは、前世紀の途中からのことにすぎません。

 哺乳類の多くは母親が子どもを育てます。鳥類の多くは父母のつがいで子どもを育てます。しかし、「社会」をつくって暮らすようになったヒトという名の私たちは、そのどちらでもありません。子どもたちは地域社会の群れで、多くの大人のかかわる共同繁殖のなかで育ちます。子育ては母親がすべきとか、父母がすべきという発想は、そもそもヒトの暮らしの自然な姿にはありません。

     母性神話と3歳児神話

 子育てをしているママたちに、私たちは「よい子育て」を、つい教えたくなります。さまざまな暮らしやさまざまな親子関係があるのに、自分の思う「正しい」子育てを説きたくなります。しかし、子どもたちは共同の営みの支え合いのなかで、集団のなかで育ちます。

 私たち日本人は、戦後の高度経済成長期に核家族化がすすむなかで、母性を過度に神格化してきました。3歳までは母親が一人で子育てすべきだという「3歳児神話」をいつのまにかつくりあげ、子育て環境の不自然な孤立化を「そうあるべきもの」としました。養育環境の不十分な子どもを「母親がネグレクトしている」と非難するとき、私たちは育児の責任を母親に押しつけています。新型コロナウイルス問題下でその傾向がさらに露呈したのは皆さんがみての通りです。「自粛して下さい」と私たちは育児サービスを突如ママ達からとりあげ、“こういうときくらい子どもは家で母親がみるべき”と圧力をかけました。

     では父親が育児に参加すべき?

 母性神話が成立した高度成長期から、父親たちは早朝に家を出て、深夜まで帰ってこなくなりました。1992年に、先進国中最悪の長時間労働を是正すべく「時短促進法」を制定しましたが、その後の経済危機で放棄され、子育て世代の男性労働者の労働時間はむしろ増大しました。欧州を見習って父親も子育てに参加せよと言ってみたところで、実現する家庭はわずかです。そういう社会をつくってしまったのは私たちです。

     私たちのこれから

 子どもは社会が育てるという思いをこめた「こども庁」は「こども家庭庁」にかわってしまい、子育てを母親に押しつけるわが国の社会がすぐに変わりそうにはありません。一方で、子ども食堂のように地域住民が子育てを分かち合う活動が区民の皆さんのなかに広がってきていることを心強く思います。そのような地域活動を子どもも母親も誰もが、罪悪感やうしろめたさを感じることなく、あたりまえに利用しあえる暮らしが実現することを願っています。

 産後うつなどのこころの不調になるママたちは、いまも、これからも、きっと必ずいます。子育ての負荷がママたちにあまりにも集中しすぎているわが国の現状では、たくさんの不調な人、不調になりかかっている人がいて当然です。“子育ての仕方をおしえてあげるから頑張りましょう”と指導するのではなく、そのままでいいと保証し、子育ての負担を「群れ」の皆で分かち合い、少しでもママ達に休息を保証して下さい。

 「群れ」とは家族のことではありません。私たち練馬区の皆さんのことです。

 

全国保健師活動研究集会(旧名称:自治体に働く保健師のつどい)

2025年精神保健セミナー「保健師のための虐待予防の実践」

 長尺の講義です。保健師の専門性が虐待予防にそのままつながることを示し、聴衆は保健師を前提にしておりますので他職種の方にはやや難解かも知れません。

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2025自治体に働く保健師のつどい精神保健セミナーHP
2025年精神保健セミナー HP.pptx
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2023日本周産期メンタルヘルス学会学術集会特別講演

「子どもの虐待予防と妊娠期・周産期からの妊産婦支援」

 保健師が来場者の大半をしめるいつもの講演と異なり、助産師、産科医師、周産期メンタル担当精神科医が計数百人来場されました。その後上記系統の学会誌から寄稿依頼があり、わが国の虐待予防の取り組みの幅が広がっていくことを期待しています。

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周産期メンタルヘルス学会2023特別講演
症例スライドは省く
2023年11月特別講演HP用.ppt
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2015日本子ども虐待防止学会にいがた大会企画シンポジウム

リスクを抱える親たちを支えるため

乳幼児健診におけるファースト コンタクト:技術論を超えて」

 乳幼児健診で虐待行為を全国同一文言で全員にきく通知を母子保健の援助関係形成を破壊すると激しい論争となりました。このシンポジウム内容が翌年4月学会誌に掲載され、実施を求める厚労省通知は止まりました。

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にいがた大会企画シンポジウム
母子保健の虐待予防における援助関係形成に求められること
大会シンポ2015HP.ppt
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